日本には、古来から受け継がれる美しい伝統が数多く存在します。中でも、神前式は日本固有の文化と精神性が色濃く反映され、式後の追跡調査では他の挙式に比べ離婚率が最も低いという結果もでています。
この記事では、そんな日本を代表する美しい結婚式「神前式」の流れと、それぞれの儀式が持つ象徴的な意味について説明していきます。日本の伝統文化を大切に考えるカップルの皆さんに、神前式の本質とその美しさを理解し、感じていただければと思います。
美しい神前式・神社式の宗教とは?
神前式は日本固有の神道(しんとう)という宗教に基づいた結婚式のスタイルです。
神道はあまりに日本人の生活の中に溶け込んでいるため特定の宗教行為として意識されることほぼありませんが、日本の伝統的な民族宗教です。
神道の代表的な宗教行事としては初詣や宮参り、七五三など神社を利用する行事があげられます。
自分たちがどういった宗教のもとで、どういった願いが込められた儀式をもって結婚式を挙げるのかを知っておくのはとても大切なことです。
興味のある方はこの記事の後半に詳しく解説していますので是非読んでみてください。
神前式の流れと儀式の意味
古来より夫婦の絆を神前で結ぶこの神前式の作法には、二人の幸せな未来への願いや、家族と先祖に対する感謝の想いが込められています。
カタチだけの結婚式ではなく、願いと感謝の溢れる結婚式にするために、その儀式や作法の意味をしっかりと学んでおきましょう。
01.参進の儀(さんしんのぎ)
神職や巫女に先導された新郎新婦や親、親族が列をなす“花嫁行列”が本殿・御社殿まで進みます。
神殿につくと斎主、新郎新婦、(仲人)、親、親族の順で入場します。神社の場合、進行によって楽人が先頭。神前に向かい右側に新郎、左側に新婦が座ります。
参進の儀は神社や大きな和風式場で行われることが多く、一般的な式場では敷地や導線上あまり行うことはできません。
参進の儀は結婚式の開始を告げる重要な役割を担い、この厳粛な雰囲気が本人にも参列者にも、結婚の重要性と神聖さを感じさせます。視覚的な美しさも特徴で、美しい日本の精神性や伝統文化を感じさせます。
02.入場
斎主、巫女、新郎新婦、家族、親族の順で神前に入場します。
03.修祓(しゅうばつ)
斎主による修祓が行われます。
修祓とは「不浄の払い清め」の意味があり、人間が日常生活の中で積もる穢れや罪を払い清めるために行われます。全員が起立する中、斎主による祓詞(はらいことば)に続き、修祓が行われます。
04.祝詞奏上(のりとそうじょう)
斎主が祝詞の奏上を行います。
祝詞奏上とは神へ感謝と願いを伝える儀式です。祝詞を奏上することでその場が神聖な空間へと変わり、神と人との間に結びつきが生まれます。祝詞は古代日本語である古語で行われるため意味は分からないと思いますが、ふたりの結婚を報告し、幸せが永遠に続くようにと願う内容となっています。
05.三々九度(さんさんくど)
三つの杯を新郎新婦が交互に三度酌み交わす儀式を行います。
三献の儀(さんこんのぎ)とも呼ばれ、上から小(過去)・中(現在)・大(未来)と重なったの三つの杯に入ったお神酒を、新郎新婦が交互に飲み交わして契りを結ぶ儀式のことです。
過去は二人を出会わせてくれた先祖に感謝を表し、現在はこれから夫婦として幸せに共に生きていくという決意を表します。未来の杯には家族の幸せと子孫繁栄や一家安泰を願うという意味があります。
06.神楽奉納(かぐらほうのう)
神職や巫女によって神に神楽を奉納します。
参進の儀と同様に、主に神社で執り行われることが多く、一般的な結婚式場で行われることは少ない儀式です。
神楽奉納は神への感謝と、新たな夫婦の幸福や繁栄を祈る儀式であり、太鼓など伝統的な楽器と歌、巫女による舞が組み合わされることが多いですが、その楽曲や内容は神社や地域によって異なります。
07.誓詞奏上(せいしそうじょう)
新郎新婦が神前に歩み出て、誓詞(=誓いの言葉)を読み上げます。
誓詞奏上は新郎新婦が神に対してお互いへの愛と終生の忠誠を誓う儀式です。これによって二人の結婚が八百万の神々の前で成立したことを宣言したことになります。
08.玉串奉奠(たまぐしほうてん)
新郎新婦が神前に玉串(紙垂のついた榊の木の枝)を捧げ、「二拝二拍手一礼」を行います。続いて(仲人夫妻)、両家代表も同様に行います。
神前に玉串(榊の木の枝に紙垂(カミナリ型の紙)をつけたもの)を捧げることによって神への敬意を表し、祈りを捧げる儀式です。
榊(さかき)は四季を問わず青々とした常緑樹であり、豊かな未来を意味します。また榊はその字が表すように「神と人との境の木」とされ、二人の祈りを神に届ける役割をもっています。
09.指輪の交換
新郎新婦が互いに向き合い、新郎から新婦へ、新婦から新郎へと指輪の交換を行います。
指輪の交換は古来から神前式に伝わる儀式ではなく、教会式に影響を受けて始まったとされています。他の宗教の儀式を取り入れるとは、一神教ではなく八百万の神を認める神道ならではの柔軟さといえるかもしれません。
10.親族盃の儀(しんぞくはいのぎ)
親をはじめとする両家の親族にお神酒が配られ、それを一斉にいただくことで家族と親族の契りを交わします。
親族盃の儀には、新郎新婦が自分たちの結婚を親族に認めてもらい、家族として迎え入れてもらうという意味が込められています。また、両家が互いに絆を結び、新たな家族の一員として受け入れることを象徴しています。
11.斎主挨拶(さいしゅあいさつ)
斎主が結婚の儀が滞りなく終了したことを宣言します。
斎主挨拶はこれらの儀式をもって挙式が滞りなく結ばれたことを宣言します。また家族や親族が二人の新たな人生の道を歩み始める上で、精神的な支えとなることを願う意味も込められています。
12.退場
全員が式場から退場します。
以上をもって神前式は終了します。
これらの儀式はその意味を理解することで、神前式の厳粛な雰囲気とともに、新郎新婦の新しい旅立ちに深い意味をもたらします。神前式の真の価値を感じ取ることができた二人は、末永く幸せな未来を歩むことができるでしょう。
神前式の歴史
神前式は平安時代から1000年以上受け継がれる、日本の伝統を継承した儀式です。
昔は三日三晩かけて行われていましたが、現在のような神前式のかたちができたのは明治34年。
明治33年に当時の皇太子(のちの大正天皇)のご結婚式が、一般に公開される形で行われました。
それを見た人々から「私たちも神前での結婚式をしたい」という気運が高まり、それを受けて神宮奉斎会(のちの東京大神宮)が模擬結婚式をつくり、それが爆発的に普及したのが現在の神前式の成り立ちです。
7月21日は現在の神前式が初めて行われた日として「神前結婚式の日」とされています。神前式を行う人はこの日を狙ってみるのもいいかもしれませんね。
神道の特徴
「神道(しんとう)」という言葉や宗教をここで初めて聞いたという人も多いのではないでしょうか。
そこで、ここからは日本古来の民族宗教である神道の特徴について説明していきます。
唯一神ではなく、八百万の神を崇拝する
神道はキリスト教のイエス・キリストや仏教の仏陀のような唯一神を崇拝する宗教ではなく、自然界や祖先の霊的存在を崇拝する多神教です。
そのため開祖も経典も存在しません。
あくまで自然を尊重し、山、川、木々、岩などの自然物に神が宿ると考え、自然との調和を重んじる思想が根底にあるため、ありとあらゆる場所に無数の神=八百万(やおよろず)の神々が存在していると考えます。
また祖先を神として尊ぶなど、人を死後に神として祀ることもあります。
徳川家康公が日光東照宮に神として祀られているのは有名ですね。
日常のそこら中に神がいて、人ですら神と崇め感謝するという日本独特の宗教観が、今の美しい日本と日本人の心を育んだのかもしれませんね。
最高神は「天照大神」
神道には唯一神はいませんが、最高神はいます。
神道における最高神は、太陽の化身である「天照大神(あまてらすおおみかみ)」です。
天照大神は太陽と生命の源として、農耕社会であった古代日本人にとって特に重要な存在でした。
農耕社会と神道は密接な関係にあり、当時の人々の切実な願いが様々なところに込められています。
例えば神社などにあり、神の領域を表す「しめ縄」は、稲穂とカミナリ型の紙(紙垂=しで)を編んだものです。
これは昔から雷が多い年は豊作になるとされており、その祈りを込めたものだとされています。
雷という字の成り立ちが雨に田というのも納得できますね。
また雷が多いと窒素酸化物が増え、実際に豊作になるのだそうです。
科学のことなど知る由もない昔の人の知恵や経験には驚かされますね。
神事に必ずお神酒=日本酒が使われる理由は、米にはその字体から「八十八の神が宿る」とされており、その米を濃縮したのが日本酒=お神酒であるためです。
神道で最も格式の高い神社
神道において最も格式の高い神社は「伊勢神宮」です。
伊勢神宮という呼び名は数多ある神宮を地名で区別するための通称であり、正式名称は「神宮」です。
神宮は日本各地にある8万を超える神社の総本山であり、古来最高の特別格の宮とされています。
神前式を行う方は一度は訪れたい場所ですね。
ちなみに伊勢神宮と同じく有名な通称「出雲大社(いづもたいしゃ)」の正式名称は「出雲大社(いづもおおやしろ)」といいます。
まとめ
神前式は日本の伝統文化と精神性を色濃く反映し、結婚式に深い意味と価値をもたらします。そして、その伝統的な儀式の意味を理解し尊重することで、夫婦として新しい人生を始める上での心の安定や大切な基盤を築くことができるでしょう。この素晴らしい儀式がふたりの未来に幸福と繁栄をもたらすことをお祈りしています!